コソボ紛争の真実から考えたこと
2019.06.25 Belgrade, Serbia
これは、コソボ紛争の時に受けた空爆によるものです。この惨劇を忘れないため、二度と起きないようにするために、爆弾で崩れた建物はそのままの状態で残されています。
コソボ紛争は複雑だし、立場によって見解が異なるため説明が難しいですが、私なりに整理した内容をお伝えします。
ユーゴスラビア解体の過程で起きたユーゴスラビア紛争(1991年ー2001年)では、バルカン半島各地で紛争が頻発していました。そのうちの一つが、コソボ紛争です。
コソボ紛争は、独立を求めるアルバニア人勢力と、独立を認めないセルビア人勢力の対立です。
もともとセルビアの一部であるコソボのエリアにはセルビア人が多く住んでいました。しかし、17.18世紀頃にオスマン帝国がバルカン半島を征服していくなかで、セルビアの南側にあるアルバニアからアルバニア人ムスリムを移住させ始め、いつしかコソボに住む人口の9割がアルバニア人となりました。
先の写真は、1999年のコソボ紛争中にアメリカ率いるNATO(北大西洋条約機構)が行った空爆、アライドフォース作戦の時に落とされた爆弾によるものです。NATOは、セルビアがコソボのアルバニア人に対して行っていた民族浄化(虐殺や強制移住などにより、ある特定の民族を殲滅させること)を非人道的だとし、アルバニア人を守りコソボの独立を果たすことを大義名分とし、セルビアを攻撃しました。主に政府機関やテレビ局など国にとって重要な建物を破壊していきました。
ナターシャは、この空爆の経験者でした。
NATO軍の戦闘機がくるとサイレンが鳴り、家族と共に防空壕へ隠れていたそうです。いつ死ぬかもわからず怖かったと。
この空爆で使用されたのは、放射線爆弾だったそうです。アメリカは新しい爆弾の効果を測りたかった。そのためにもセルビアと戦争をする大義名分を作り上げ、新作の爆弾を落としたとナターシャは言います。
セルビアでは、この爆弾の放射線によるガンが増えているそうです。
さらに、コソボは地理的に好条件のため、アメリカはコソボとセルビアを喧嘩させ、コソボをセルビアから独立させ、コソボを支援することでアメリカに利益をもたらそうとしていると。
たしかに、コソボは鉱物資源が豊富です。ヨーロッパ最大級の亜鉛鉱山があり、その他にも銀や鉄、石炭などが産出されます。また、セルビア人と同じスラブ民族であるロシアは、セルビアへの攻撃には反対していました。これは私の推測ですが、対ロシア対策としても、コソボが独立してアメリカと良好な関係を持つことはアメリカの利益であると考えたのかもしれません。
「セルビアはコソボに対し残虐な民族浄化を行なっている。これは許されることではない。コソボの独立を認めないならば、NATOはセルビアを攻撃する。」
最もらしい大義名分です。
ですが、現実はどうだったでしょうか。
1980年代、アルバニア人の一部が、ユーゴスラビアからコソボを独立させることを目的とした武装勢力を結成し、拡大していきました。もともとオスマン帝国がバルカン半島に進出する際、アルバニア人ムスリムをコソボに移住させていたこともあり、この武装勢力はイスラム原理主義を掲げていたそうです。そして、この勢力は過激な「コソボ解放軍」となりました。
コソボ解放軍は、ユーゴスラビアの警察官やセルビアの一般国民を攻撃、殺害、強姦、強制移住させました。コソボに住んでいたセルビア人はコソボから追いやられてしまいました。
コソボ紛争当時のユーゴスラビア大統領は、アメリカや西欧諸国と仲が良くありませんでした。そのため、コソボ解放軍を攻撃すると、「アルバニア人を迫害している」と非難されることはわかっていました。ユーゴスラビア政府は、アメリカや西欧諸国との衝突を防ぐか、国民や国土を守るかの選択を迫られ、結果後者を選択したそうです。
アライドフォース作戦の空爆が始まったのは、NATO側が作成したセルビアとコソボの和平交渉文章に調印しなかったからです。調印期限直前にアメリカが出した付属文章にはこう書かれていたそうです。
「コソボのみならずユーゴスラビア全域で、NATO軍が展開・訓練でき、なおかつ治外法権を認めよ。」
この文章が公表されたのは空爆後。これにはNATO側の一部の国からも問題視する声が上がったようです。
これらの事実を知ると、NATO軍、特にアメリカが自国の利益の為にセルビアとコソボの対立を加速させ、セルビアを悪者にして起こされた戦争により多くのユーゴスラビア、セルビアの国民の命が奪われたことがわかります。
一方で、セルビアが潔白であるわけではありません。コソボにアルバニア人が増えてから、アルバニア人に対する差別がありました。アルバニア人はアルバニア人であることが理由で職につけなかったり、役所ではセルビア語でないと受け付けてもらえなかったりしていました。ユーゴスラビア連邦崩壊の危機が高まるにつれ、セルビアではセルビア人の利益を第一に考える民族主義を唱える人が増え、アルバニア人が不当な理由で逮捕されたり、拷問されたり、殺されたりする事件が多発しました。これによりアルバニア人の中でコソボ独立を目指す動きが高まり、一部が過激化していったのは事実のようです。
どちらが良い、悪いを言いたいわけではありません。
恥ずかしながら、ユーゴスラビア紛争やコソボ紛争についての知識はほぼありませんでした。なんとなく、民族の対立が原因で起きた紛争なんだなと思っていたくらい。だけど、ナターシャと友達になり、この紛争の被害者であることがとても衝撃的で、この問題が遠い国の自分には全く関係のない出来事ではなくなりました。
そして、この問題も、アメリカや一部の西欧諸国の利害関係により左右されている。元々民族問題はあったものの、彼らの利益の為に利用されて生まれてしまった戦争であることにもまた、衝撃を受けました。
世界では、同じような理由で戦争が起きています。中東のパレスチナ問題だってそう。インドパキスタン戦争だってそう。強国の利益の為に、対立を煽られ、破壊された街、犠牲になってきた多くの命があります。その事実は、知っておかなければならないと思います。
ナターシャは日本に留学していましたが、「日本のメディアはアメリカを良いようにしか言わないよね。他の国もそう。アメリカには何も言えないよ。セルビアは反発するから、嫌われるんだよね。」と言いました。
戦争を起こすのは、政府の独断とは限りません。メディアに煽られた国民世論が、戦争を引き起こします。
外交問題、選挙のこと、コロナのこと、何でもそうだけど、ひとつの偏った情報を鵜呑みにするのではなく、「誰かの都合の良いように発信されているのではないか?」「反対意見の人は何と言っているのか?」と、きちんと調べたり自分の頭で考えることがどれだけ大事なのかを、セルビアを訪れ、ナターシャに出会い、コソボ紛争について学んだことで痛感しました。
最後ですが、コソボは現在も正式な独立はしていません。90ヶ国ほどが独立を承認していますが、80ヶ国ほどが反対しています。国連安保理のロシアと中国が反対している為、独立は難しい状況です。西欧諸国の中でも、スペインは反対しています。自国でもカタルーニャの独立問題を抱えているためでしょう。
皆さんもうおわかりかと思いますが、日本は承認しています。いつでもアメリカ側ですからね。
前回紹介したバスを覚えていますでしょうか。
このバスは、ユーゴスラビア紛争と国際社会からの経済制裁で疲弊したセルビアに対し、日本が無償提供した93台の新車バスです。これらのバスは、日本を意味する「ヤパナッツ」の愛称で知られ、今でもベオグラード市内を走っています。
コソボ独立を認めつつも、せめてもの支援をするあたり、日本らしいなぁと思います。
以上です。きれいにまとめられませんでしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでもコソボ問題について学びがあったり、思うことがあれば、幸いです。